2012年08月 Intoxicated Lotus
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 思わず、鼻の奥がツンとなる瞬間――。

01. Guardian

02. Woman Down
03. 'Til You

04. Celebrity
05. Empathy
06. Lens
07. Spiral

08. Numb
09. Havoc
10. Win And Win
11. Receive
12. Edge Of Evolution


 Alanis Morissetteという名前を耳にしたとき、多くの人は後にMichelle BranchやAvril Lavigne等がセンセーションを起こすこととなったガールズ・ロックの先駆けとなったカナダ出身のシンガー・ソングライターというイメージがわくのだろうか。名曲「Ironic」でのラウドな歌唱や、同じく名曲「You Oughta Know」における激情を殴り書いた歌詞は椎名林檎に影響を与えたとも言われているし、兎にも角にも女性アーティストのロックの歴史を語るにおいては、近代のスタイルを確立させたパイオニアとして触れずにはおかれない重要人物であろう。しかし、筆者は元々激情を歌うアーティストに苦手意識を持っていた。今でこそ椎名林檎もCoccoもACOも中村中も大好きであるが、正直彼女たちを聴くようになったきっかけは毒が抜けた時代からであるし、それはこのAlanisにおいても同じで、中学時代にパンチの効いた美術教師に何度おすすめされても頑なに避けていたのが、映画『プラダを着た悪魔』で偶然耳にしたSealのカヴァー「Crazy」で筆者は初めて彼女に興味を抱いた。丁度そのタイミングでベスト盤がリリースされたが、まったく良さがわからず、次のアルバム『Flavors Of Entanglement』に手を出してみるも、あまりに難解ですぐに手放してしまった。程なくして、筆者は苦手だった椎名林檎にハマる。きっかけは東京事変の「能動的三分間」であった。そこからアルバム『スポーツ』を購入、過去作コンプリートとズブズブにハマっていくのだが、当然激情に対する耐性のようなものができたし、むしろ中毒になっていた。その過程でタイミングよくAlanisが今作からの先行シングルM1「Guardianを発表。筆者は椎名林檎がイケるならAlanisだってイケるはずだと試聴してみた。するとどっこい、以前の難解さや激情や毒は何処へやら、歌っていたのは聖母Alanisだった。綺羅びやかで光の差す導入に、春風のような爽やかなギター……どうしてだろう、筆者のなかで、光が差すときは同時に風が吹くイメージなのだ。彼女は満を持して"ねえ、痛みを感じても微笑むあなた"と歌い出し、"あなたを護る最高の名誉"とキャッチーなメロディで晴れやかに歌い切るそのサマは、まさにこのアルバムのジャケットの景色を端的に表している。終盤のファルセットもまた、北欧の草原を吹く風のようで心地よい。だからといってMVで背中に羽を生やすのはどうかと思ったが、とにかく筆者は、この曲を聴いて今作の購入をなんの迷いもなく決めたのであった。

 さて、届いたアルバムの蓋を開けてみると、多彩なロックナンバーが満載。わかりやすく伝えるために、筆者は子どもと一緒に山の草原に遊びに来たAlanis演じるシングルマザーが主人公の物語を考えた。M1「Guardian」は、シーンで言えば子どもが無邪気に草原を走り回るところを眺めるAlanis。続くM2「Woman Down」はAlanisも一緒になって遊び出すような、ティーン層にもウケそうなポップでキャッチーで弾けるアップナンバー。そこに風刺的な歌詞を乗せた、皮肉の効いたアプローチだ。続くM3「'Til You」は春を感じさせる暖かみを持った、遊び疲れてウトウトしている子どもに聴かせている子守唄のような落ち着いたナンバー。とても子守唄になるような優しい歌詞ではない気もするが、この曲が終わる頃には子ども(と一部のリスナー)は眠りにつく。
 しかしここで寝てんじゃねぇよと悪魔Alanisが覚醒。かつての曲調を思わせるM4「Celebrity」では"誰を飢えさせれば有名になれる?"と隣で健やかに寝息を立てている子どもに今にも毒牙を仕掛けそうなヒリヒリ感が堪らない……かと思えばM5「Empathyでは"孤独は殆どなくなった"だとか"あなたの相槌に癒やされる"だとか、喜びを歌う。単独で聴けば素敵な歌であるが、アルバムの流れで聴くと、綺麗なメロディであるがゆえに、まるで二重人格を見ているかのようで畏ろしい。シーンで言えば、我に返ったAlanisが子どもの寝顔を愛おしく思っている部分であろう。白眉なのは、大サビに入る瞬間。"There was a day"のフレーズと一緒に世界が一気に広がる感じがして、筆者はとても感動してしまった。続くM6「Lens」では相手との価値観の違いを歌い、レンズ越しに見える世界が広がっていくかのような、言い合いを互いに倍で返しているかのような、そんなメロディ展開が秀逸だ。その展開は、目覚めた子どもとランチを食べる楽しい会話のやりとりのようにも聞こえる。
 さて、M7「Spiral」は間違いなくハイライトであろう。今作中最もテンポが速く、弾けんばかりのポップさ・キャッチーさを持った曲であり、いわゆる万人受けしやすい曲である。M2「Woman Down」に続いて、目覚めて食べてフル充電した子どもと後半戦だとばかりに遊び弾けている。しかし、その内容は"批判だけ残して置いて行かないで 私を貶めるためになんだってやる 否定しか聞こえないようなときは 静かにしてもらうよう私を助けて"と暗いもので、相手に依存しないとやっていられない、弾けてないとやっていられない、もしくは悶々としすぎてフューズが吹っ飛んでしまったという印象を受ける。つまり、子どもと遊んでいるAlanisの笑顔に影が見えるシーンだ。こういう、明るい曲調に重い歌詞を乗せるスタイルは、以降Lily Allen等のシンガー・ソングライターに受け継がれている気がする。続くM8「Numb」は友人が"ひとりEvanescence"と形容したのがとてもしっくり来る、ゴシック調のホラー曲。M4「Celebrity」に続いて、悪魔Alanis2度目の降臨である。とは言えこちらは悪魔というよりも、M7「Spiral」からの繋がりで、主人公が堕天使になってしまったと考えたほうがごく自然である。歌詞は"感情が訪れる 私は逃げ去り 薬に辿り着く じっとしていられない トンじゃった方がマシ 気持ちよく麻痺するの"とドラッグを匂わせる危ない内容で、ホラーな曲調なのも納得である。遊び疲れた子どもの顔を見ながら、実は夫がいないがゆえにギリギリの生活をしているAlanisが今後を憂う重要なシーンだ。
 ここからは、"無のゾーン"に入る。麻痺した主人公の昏睡状態のような、そこから這い上がる禁断症状の状態のような。つまり聴き手としては最も眠くなるゾーンである。M9「Havoc」はアルバムの表題曲と言っても良いだろう。夢見心地なサウンドと、揺蕩うような歌声。いつの間にか子どもと一緒に眠ってしまったAlanisが夢を見ているシーンであるが、歌詞の内容が大荒れ状態なのは、どこかCoccoと通ずる部分がある。続くM10「Win And Win」は横揺れのハートフルで平和的なサウンド。勝ち負けではなく"両者勝ち"の世界だと提示し、全員に"同じ価値がある"と歌っている。Alanisはその夢を見ることで、自分を取り戻す。目覚めて、子どもを見て、何があってもこの子を守り抜かなければと強く思う。そんなときに、突然の嵐が訪れる――曲調としては聴いていてヒーリングの効果があると思えるほどに落ち着いているが、それゆえにこの"無のゾーン"の2曲だけが今作のなかで再生時間が5分を超えている。しかしここで寝落ちしてしまってはもったいない。次に珠玉のナンバーが控えているのだから、まったく、焦らすだけ焦らす計算高いアーティストである。
 筆者が今作で一番のお気に入りであるM11「Receiveは、とても感動的なナンバー。ポップでキャッチーでありながら、今作中一番の壮大さや説得力を持っており、感情にダイレクトに訴えかけて来る。当初は歌詞の意味を知らずにきっとChristina Aguileraの「Beautiful」のような自己啓発系の曲なんだろうと思っていた。だからこそMVもモノクロのAlanisが"たとえ顔が長くてもそれを受け止めよう"と訴えているのかと勝手に感動していた。しかし実際に歌っている内容は"今日はすべて私のこと 満杯に満たされている 学ぼうとしているのよ どうやって受け取るか どう受け止めるのかを"と、日々をどう生きるかを歌っている。今日をどう受け取ろうかと考えあぐねているうちに、もう明日がやって来て仕舞うような、そんな刹那さが感じられる。だからこそ、MVでは様々な色(=日々)がモノクロの出演者たちに振りかかっているのだろう。筆者は中島美嘉の「僕が死のうと思ったのは」を思い出したのだが、Alanisは生きることに真面目すぎて、M8「Numb」で歌ったように麻痺することが楽なように思えて逃げたくなることもあるのだろう。しかし、絶え間なく訪れてくる明日に、私はもうこんなにいっぱいいっぱいなのにと泣きじゃくりながらも、果敢に立っていようとするそのサマ。今日を受け取ろうとするそのサマ。とても人間味があって、どこまでも絶望的で、どこまでも希望がある。だからこそ、筆者には今作のジャケットのAlanisの笑顔がとても感慨深いものに見える。きっとこのアルバムは、そんな泣きじゃくる大荒れの日々でも光り輝く笑顔でいたいと思った瞬間を切り取った作品なのである。そして、そんな彼女を見守るM1「Guardian」こそが、彼女の周りを囲むこの大自然なのだろう。
 名作は、核となるナンバーを最後から2番目に配している場合が多い。そして最後の曲をエンドロールとして使うのだ。間違いなく、今作のエンドロールにあたるのがM12「Edge Of Evolution」である。子どもとふたりで生きていく意志をしっかり持ったAlanisは、成長痛(自分で意訳しておきながらMary J. Bligeの『Growing Pains』を思い出した)を確かに感じながら、一歩ずつ強く、今日を・明日を・未来を生きていこうとする。だからこそこのラストナンバーは今作中最もハードでエッジの効いたロック・ナンバーで、いくら強風に吹かれようと、毅然とした姿勢・凛とした表情で子どもを抱いてまっすぐに山を立ち去るAlanisの姿が目に浮かぶ。そして彼女がフレームアウトした瞬間に、画面には"fin"の文字が浮かび上がり、今作は幕を閉じるのである。

 以上、筆者のように彼女に苦手意識を持っている人間でさえハマれた初心者向け的な門構えをしていながら、なかなか骨太で本質的なアルバムであり、その辺は流石といったところ。決して毒が抜けたわけではなく、虚勢を張らずとも自分が表現したいことをどんな曲調やヴィジュアルであっても表現できるまでに円熟した、ということなのであろう。まさに天晴。筆者は椎名林檎と同じく、今では過去作を漁ってすっかりAlanisヲタになってしまった。月並みな表現ではあるが、次なるアルバムではどんな表情を魅せてくれるのか、とても楽しみである。筆者が作った物語と一緒に今作の素晴らしさが少しでも伝わったらと、微かな願いを添えて本稿を閉じる。


 14/06/03
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