2015年06月 Intoxicated Lotus
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avex産理系遺伝子、ここに覚醒――。

01. Photogenic
02. Time Has Come
03. Golden Touch
04. Birthday
05. It
06. Scream
07. Fashionista
08. Fly
09. B Who I Want 2 Be feat. 初音ミク
10. Stranger
11. Every Woman
12. Space Invader
13. Anything
----Bonus Track
14. What I Did For Love feat. 安室奈美恵 / David Guetta

 今年、遂にマネジメントの独立を果たした安室奈美恵が、80's~90'sのリヴァイヴァルをコンセプトに掲げた待望の新作『_genic』を発表した。しかも、全曲新曲。もともとアルバムのコンセプトに合わないと判断したシングルは収録しないタイプのアーティストではあったが、既発曲全曲排除は今回がはじめて。これは邦楽では異例の形態であり、それと同時に、《シングルなしでも勝負できる》《アルバムで勝負してみせる》という、彼女の並々ならぬ意気込み、気合い、そして自信が感じられる。なんせ、独立を果たしてはじめてのアルバムだ。これが失敗してしまってはお先真っ暗、これまで積み上げてきた彼女のキャリアも、今のご時世一瞬で崩れ去ってしまう。だからこそ、彼女は今回この異例の形態で"勝ち"に来た。これはカントリーからポップに路線を変更したTaylor Swiftと同じくらいリスキーな決断であるが、これが成功すると彼女の地位はより揺るぎないものになり、そして更にアルバム・アーティストとしても箔がつく。そんな彼女の挑戦状とも言えるこの作品、筆者としては正直、彼女の勝ちだと思う。
 その予兆は、ティーザーで確かに感じていた。いつも以上に挑発的な歌詞、いつも以上にバキバキのサウンド。それらがすべて、筆者のツボだった。そこにいたのは、勝ち気なディーヴァ安室奈美恵。そして昨日CDを手に取って、聴いて、その"勝ち気なディーヴァ安室奈美恵"は、確実な存在となったのだった。

 M1「Photogenic」は、安室奈美恵版「Vogue」といった位置づけ。奇しくも先日最新作『Rebel Heart』で"絶対女王"と謳われたMadonnaのように、彼女もこの曲で"絶対女王"安室奈美恵を高らかに宣言している。何より、彼女のファン層の心を刺激するディーヴァなリリックが、ファンキーなディスコ・サウンドに乗っている。シャッター音まで巧みにキメて、掴みは完璧だ。次のM2「Time Has Come」はロッキッシュなアプローチで、煽りが効いている。それにしてもこの曲、(独立する)時は来たという意味にも捉えてしまうのは、考えすぎだろうか。それとも、彼女の手のひらの上だろうか……続くM3「Golden Touch」はAmeriieの「1 Thing」を思わせるファンクのビートがゴージャスに鳴り響くR&Bチューンで、Ashantiの「Rock Wit U (Awww Baby)」やCher Lloydの「I Wish feat. T.I.」のような胸キュン要素もあり、とてもキュートな仕上がりになっている。Murder IncやRich Harrisonが恋しくなること請け合いではないだろうか。お次のM4「Birthday」は彼女初のバースデー・ソングで、ディスコなサウンドと小気味いいハンドクラップで気分はハッピー(BoAの「FUN」もこういった雰囲気だった)。また、My Double Birthdayと歌っているだけあって新星安室奈美恵の宣言でもあるのだろう。レトロな口笛ソングM5「It」(口笛ソングといえばJason Deruloの「It Girl」)を挟んで、今回コラボを果たしたDavid Guettaの3年前の「Night Of Your Life feat. Jennifer Hudson」のような、今聴くと若干チージーにさえ聞こえてしまうくらいのゴテゴテの王道EDMナンバーM6「Scream」でテンションはブチ上がる。そのテンションはそのままに、レトロ・サウンドから晴れやかなディスコ・サウンドに展開していくM7「Fashionista」ではディーヴァ安室奈美恵が再びこちらを挑発してくる。多重コーラスのサイケデリックなアカペラからはじまるM8「Fly」は、EDMマナーに則った曲ながら、どこかエスニックでお祭りのような雰囲気(Alexandra Burkeの「All Night Long feat. Pitbull」やNelly Furtadoの「Waiting For The Night」辺り)を出している。そしてお次は問題作M9「B Who I Want 2 B feat. 初音ミク」である。アルバム中最もぶっ飛んだ曲で、最も変態な曲である。それもそのはず、新進気鋭のプロデューサーSOPHIEによるプロダクションだからだ。そして何より、ゲストが初音ミク……最初に言っておくと、筆者は初音ミクをはじめとするヴォカロが大の苦手だ。理由は単純明快、人間ではないからだ。筆者は、人間の歌が聴きたくて音楽を聴いている。そんな筆者にとって、ヴォカロを聴くという選択肢はこれまでまったくなかったし、聴かず嫌いしていた節もある。しかし、SOPHIEがプロデュースしているQTの「Hey QT」はこれでもかというくらいピッチを弄ってヴォーカルを加工していて、もはやヴォカロのよう。また、安室奈美恵にはかねてよりピンク・パンサーであったり、ガンダムであったり、ゴールデン・エッグスであったり、アニメ界隈と好んでコラボするオタッキーな一面があるため、このチョイスにはさほど違和感がなかった。そして何より、安室奈美恵の歌声は正直無機質(失礼!)で、どうやらそういったプロダクションとは相性がいいようだ。そのためか、拒否感も嫌悪感もなく、割とすんなりと受け入れられた。ただ、この曲のフューチャリスティックな浮遊感は、アルバムのなかでは若干浮いているように思える。それでも、SOPHIEの曲が持つ謎の中毒性には抗えないというのが正直なところだ。続くM10「Stranger」は前作『FEEL』に「Heaven」というアンセムを提供したZeddが再び起用されたと噂になったほどアゲアゲのEDM仕様で、否応なしにアガる。また、M11「Every Woman」はサイバーなサウンドながら、ディーヴァ安室奈美恵が3度目の登場を果たし、心強いガールズ・アンセムに仕上がった。続くM12「Space Invadar」は本作中では比較的落ち着いたテンポの曲で、ミッドと言ってもいいかもしれない。それでもトラックは宇宙なだけあってサイバーで、どこか変態チックである。その変態さを払拭するかのように、アルバムは今の彼女が歌うからこそ(ちょっと大袈裟なくらい)説得力を持つ、アコースティックでスケールの大きいメッセージ・ミッドM13「Anything」で爽やかに幕を閉じる。そのあとは、Special Trackとして、David Guettaの最新作『Listen』収録の「What I Did For Love」を安室奈美恵が歌ったヴァージョンが追加収録されている。

 以上、あっという間に聴き終わってしまうコンパクトさで、『STYLE』以降アメリカのR&BやHip-Hopを基調としていた安室奈美恵は、サウンドもヴィジュアルも、今作でハッキリとヨーロッパのダンス・ミュージック方面に舵を切った。それがアルバムとしての統一感を出すことに大きな貢献を果たしているし、独立を経た新生安室奈美恵の最初の作品として、ヨーロッパへのアプローチを打ち出したのは本当に素晴らしい。まあ、M9「B Who I Want 2 B feat. 初音ミク」の浮きっぷりと曲順が少々気になる(ディーヴァ・ゾーンやレトロ・ゾーンの流れを統一してほしかったし、何よりM13「Anything」の前の曲はもっと王道のブチ上げEDMが良かった)が、気づけば何度もリピートしてしまっているので、すべては彼女の手中であろう。そして、このアルバムは決していい曲を寄せ集めただけの上質ポップ・ソング集ではなく、しっかり80's~90'sのリヴァイヴァルというコンセプトが根付いている。それが集約されたのが、タイトルでもある『_genic』だ。遺伝子という意味を持つ単語だが、このアルバムで安室奈美恵が表現しているのは、彼女が青春期(80's~90's)に聴いて彼女の遺伝子に根付いていた音楽のリヴァイヴァル(こういうところもTaylor Swiftの『1989』に通ずるものがある)。それを再現するにあたって、彼女のなかに眠っていたヨーロッパの遺伝子が覚醒したのが、まさにこのアルバムなのだ。そして遺伝子という単語から連想するイメージ通り、このアルバムは理系なのだ。リヴァイヴァルというハッキリとしたコンセプトはもちろん、M3「Golden Touch」の最新技術を駆使したMVにしても、M4「Birthday」のMVの一発撮りにしても、洗練されたロイヤルでインテリジェンスなヴィジュアルにしても、徹底されたディーヴァな姿勢にしても、すべてが絶対女王安室奈美恵のパブリック・イメージを更にアップグレードさせるべく、完全に計算し尽くされている。それに、もはや全英語詞と言ってもいいくらいの歌詞の英語への振り切りっぷりも、日本語が母国語の我々日本人にとっては、歌詞が記号化されて無機質化するという大きな意味を持っている。ダンス・ミュージックは英語のほうがリズムに乗せやすいとはよく言うし、そもそも彼女はもともと無機質で無感情に聞こえる歌声の持ち主(再び失礼!)なので、英語との相性は抜群なのだろう。そして、シングルを日本語詞にすることで、アルバムとのヴァランスを取っているようにも思える。「TSUKI」「BRIGHTER DAY」といった最近のシングルは、日本語詞で、かつ情景が浮かぶような歌詞であり、それはやはり、どちらかに分類するならば文系なのである。そのため、理系である本作にそれらのシングルが収録されなかったのは、独立の騒動等がなくとも、ごく自然な流れだったのかもしれない。
 しかし面白いことに、ここまで計算し尽くされた理系アルバムでありながら、本作はこれまでで一番体育会系のavexらしいアルバムに仕上がっているように思う。王道から最先端まで流行を落とし込むのが得意なavex、カワイイからカッコいいまでさまざまな一面を網羅したド派手なMVを作るのが得意なavex、そしてアルバムの最後にメッセージ・ソングを収録するのが得意なavex……といった具合だ。自身の個人事務所stella88を設立した安室奈美恵だが、彼女の根底にはavexディーヴァとしての遺伝子(=genic)が息づいている。独立したことで、それが逆に際立っているようにすら思える。とはいえ本作の制作陣にはavex作家が多く見られるし、彼女のDimension Pointはavex傘下のレーベルであるため、それは当たり前なことなのかもしれない。しかし、この先どこまで行ってしまおうと、彼女がavexディーヴァであるという事実は、何故だか無性にホッとしてしまう。これは決してavexディーヴァがダサいという意味ではなく、筆者はもともとavexディーヴァのド派手なエンターテイメント性を見て育ってきたタイプなので、ある種の刷り込みのようなものだが、avexディーヴァには、どこか親近感を抱いてしまう。そのため、正直80's~90'sのリヴァイヴァルと言われてもピンと来ない89年生まれの平成人だが、M6「Scream」のチージーさのような、勝ちに来ている作品にそういう隙があると、妙に安心してしまう。だからこそ、恐ろしいのだ。筆者はこのアルバムを聴いて、壊滅的に腰が重いくせに、久しぶりにアルバムの感想記事を書きたいと掻き立てられてしまった。それはひとえに、彼女が、そして彼女のこのアルバムが、聴き手の心の奥底に眠る遺伝子を呼び覚ましてしまうからだ。もしもそういった意図も込みでこのアルバムが『_genic』と名づけられていたのだとしたら、今回の勝負は完全に彼女の勝ち。まさに彼女のなかのavex産理系遺伝子、ここに極まれり――である。


 15/06/10
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